今から33年前の事。
ゴールデンウィークに予定が何もなく、暇で暇でたまらなくなって、全くの無計画でシュラフとテントを積んで、紀伊半島1周のバイクツーリングに出ました。
その当時はスマホなどなく、『二輪車ツーリングマップ 昭文社』を頼りにツーリングしていました。
その時の愛車はSUZUKIのGS250FWという、世界初の水冷250ccという触れ込みのバイクでした。
1日目 潮岬へ
大阪から和歌山に向けて出発。
出だしは順調で、和歌山市を過ぎてしばらく走ってから入った喫茶店でカツカレーを食べました。あまりお腹は減っていなかったのですが、時間的に食べておいたほうがいい、と思い入ったんですが、そのカツカレーが最高に美味しかった!!お腹がすいていないにも関わらず、あっという間に完食した記憶があります。おかわりをしたかったけど我慢したと思います。
残念ながらその店の屋号を覚えていません。
初日は紀伊半島の突端、潮岬にて宿泊。
2日目 とりあえず行けるところまで行ってみる
次の日、潮岬から海岸線を辿って伊勢まで。
海岸線といってもところどころ山道にも入っていくので、くねくね道が多かったです。
山が多いところだったので、大きな木を積んだ長い長いトラックが走っていて、バイクで走るのは辛かった。
伊勢からは大阪に向けて走る。
その頃の私は”食”にはあまり興味がなく、ただひたすら走っていた記憶があります。
走って風を切って走るのが気持ちよかったんです。
15時ころ、テントを張れる場所を探しながら走っていると、ツーリングマップには曽爾高原にキャンプ場の記載が。
そのキャンプ場に向けて走り、山深い場所にぽつんとあった店で、夕食になるようなものを探したんですが、あいにく私の苦手なバッテラしか置いてなく、仕方なくそれを購入してキャンプ場へ。
着いたキャンプ場は、・・・・・・・・・キャンプ場と言えるような状態ではなく、雑草が生い茂り、なんとかテントは張れるかな、といった程度の広さしかありません。
ここにたどり着くまでに車とすれ違った記憶もなく、人家なんてありません。
一抹の不安と恐怖が襲ってきましたが、疲れもあって仕方なくそこでテントを張りました。
その判断が恐怖の始まりでした。
恐怖の夜
テントを張ってほどなくして日が暮れてきました。
誰もいない山の中でテントの中で一人、考えただけで身震いするような恐怖が襲ってきます。
こんな時は早めにご飯を食べてすぐ寝るに限る、とばかりに晩ごはん用に買ったバッテラを出し、食べようとしたところ、なんか変な匂いがする。
ん?なんでや?と思い、パッケージの裏を見たら・・・・・見事に賞味期限を3週間過ぎていました。しばしの間、恐怖を忘れ怒りが私の心を支配しましたが、それもすぐに収まり、バッテラをパッケージに戻し、袋に入れ直して、しょうがなく寝ることに。
疲れもあってかすぐに眠りに就きました。
野犬に囲まれ”死”を覚悟する
私は非常に寝相が悪いんです。それなの体の自由を奪うシュラフに入って寝るものだから、数時間ごとに寝返りをうちます。
眠りについて最初の寝返りでそれは起こりました。
寝返りをうった瞬間、テントのすぐ近くで4,5匹くらいの野犬が一斉に吠え始めました。私と野犬の間にはテントの生地1枚だけしかありません。
一瞬で私の体は凍りつき、身動きができない状況に。
すぐ近くで吠え続ける野犬になすすべもなく、私は”死”を覚悟しました。
実際には1分くらいだったんでしょうが、私には1時間くらいに感じたその状況。
なすすべもなく固まっていると、野犬たちは遠ざかって行きました。
ホッとして気が抜けたのか、また眠りについて、寝返りをうつと野犬が猛烈に吠えまくる、という事を味わい、また野犬が遠ざかった時に『なんで野犬はここにくるんやろ?』と考えたら、ピンときました。
バッテラが原因なんですよね。それの匂いを嗅ぎつけて野犬たちは来たんじゃないかと推測し、恐怖を振り払って思い切ってテントから出てバッテラを山の中に捨てに行き、
テントに戻り気配を伺っていたら、野犬たちはやはりそちらの方に向かったようでした。それでも『私を襲いに来るんじゃないか』と気が気でなかったのですが、野犬たちの遠吠えが遠くで聞こえたので、寝ることにしました。
野犬の次は・・・・
野犬の恐怖がやや薄れた頃に眠りについて、しばらくすると今度は新たな問題が。
時間は覚えていませんが、深夜0時をかなり過ぎた頃だったんじゃないかと思います。
車が近づく音が聞こえてきました。『こんな山奥の何もないところに誰が?』と不審に思い、野犬に襲われた事もあり恐怖思考になっているため『まさかヤクザが人を埋めに来たんじゃないか』とドラマの見過ぎな思考に陥り、新たな恐怖心が芽生えました。
車はテントの近くに止まり、複数の人が降りてくる気配が。その時の私は恐怖心マックスの状態で、あぁ、バイクツーリングに来るんじゃなかった、と後悔しきり。
しかし数分後、その車の主たちは火をおこし、酒盛りを始めました。話の内容を聞いているとどうやら大学生らしかった。
私は『先客が寝てるんやから静かにせんかい!』とか『夜中になに騒いどんねん』とかは全く思わず、『あー、これでやっと朝まで安心して寝られる』と思いました。
最後に
昨夜の恐怖から逃れるように、早朝から自宅に向けて帰りましたが、早朝の山の中で前を行くバスが道を譲ってくれて、私が追い越しざまに左手をあげてお礼をすると、背後からクラクションでバスの運転手が応えてくれました。
たったこれだけのやりとりを、ものすごく心が温まる交流だ、と感じながら『これだからバイクツーリングはやめられない』と、ひとりごちて帰りました。
自宅に戻って速攻爆睡したのはいうまでもありません。
今ではスマホがあるし、外部との連絡はいつでもできますが、当時そういうわけにはいきませんでした。
皆さん、山の中での一人のキャンプはやめましょうね。