今年の新入社員のYくん、大学院卒で非常に『期待の星』として入社してきました。
私の会社は、大阪本社の仕事も『世間で認知されていない』技術職。今でこそその業種を言うと、知ってくれている方も増えてきましたが、まぁマイナーな業界。
そして私が普段している仕事は、これまた誰も知らない業種で、いつも人に説明するのに苦労し、結果誰も理解してもらえないまま、というのが常です。
そんな職場に大学院卒で入社してきたYくん。
私が普段仕事をしている分野の勉強をしていたそうで、私も少し期待していました。
先月末から私と一緒に仕事をするようになったんですが、まぁキャラが立っているというか、マイペースというか、面白い人物。
先日、私が彼にこう指示を出しました。
「昨日した作業で測定機器を使ったけど、昨日の測定器と、今用意している測定器が同じものか確認して」
と。
その測定器、見た目に高価でいくつもあるもんじゃない、というのは素人でもわかる代物。「同じものかどうか確認して」と言ったのは、形は似ているが用途が違う機器もあるので気をつけて、という意味でした。
しばらくしてYくんが、その機器の周囲を漂っています。
そんなYくんに
「同じやったか?」
と聞くと
「形は同じですが、型番・製造番号まで同じかどうかは分かりません」
との返事。
私はしばし「・・・・・」となりつつも、なんとなく彼の思考が分かるような気がして、苦笑してしまいました。
高価であり、2つも用意できるものではない、というのは周知の事実ですが、新入社員にはそんな事は分かりません。
同じものかと問われ、見た目は同じやけど、昨日使っていたものと同じかどうかは『型式や製造番号を覚えてないので、同じかどうかは分かりません』と答えた返事に、過去の自分を思い出してしまいました。
今から30年ほど前、私がYくんと同じ立場だった頃。
先輩から
「昨日使っていたドリルの刃、持ってきてくれ」
と言われた私。
『昨日使ってたドリルの刃って、確か黒いケースに入っていたよな』
と、必死に探しますが見つかりません。
物は見つからず時間ばかりが過ぎてしまい、しびれを切らした先輩が
「何してんねん!!昨日使ってた刃は見つからんのか」
と怒った声で聞いてきたので
「昨日使っていたドリルの刃のケースが見つからないんです」
と返すと
「それやったら他のドリルの刃を持ってきたらええんちゃうんか」
と呆れられました。
私としては『昨日使っていたドリルの刃』じゃないといけないと思っていたのですが、先輩は『穴を開けられればどれでもいい』という意味だったらしい。
『昨日使っていたドリルの刃』は『昨日10mmの穴を開ける作業してたやろ?今日もそれをするから持ってきて』だったそうです。
今のYくんを見ていると、どうしてもその頃の私を思い出し、憎めないんです。
Yくんに物を取ってきて貰っても、非常にゆっくり移動する姿を見ても、ボルト締め作業を指示し、出来たかと問うた際に「ボルト締めしましたが、全部しまっているかどうかは分かりません」と答えられても、憎めないんです。
それは彼の思考がわかるから。
ボルトは締めたが全部締めたかどうかは分からない⇒ボルト締めはしたが、締め忘れがあるかもしれません、の意だと思うのです。
さぁ、これからこのYくんを、いっぱしの『技術者』とすべく、私も奮闘しなければならないな、と思っています。